「海外旅行に行きたいけれど、今の歴史的な円安や物価高を考えると、航空券代だけで気が遠くなる……。燃油サーチャージだけで数万円なんて、今はちょっと賢い選択じゃないかも。」
そんな風に諦めている方にこそ、ぜひ提案したいテーマがあります。それが、**「国内にいながら、五感で現地を味わう旅」**という選択肢です。パスポートの更新も、面倒な入国審査も、高い航空券も必要ありません。
今回、私と夫が「1.5時間のフライト(のつもり)」で訪れたのは、池袋北口にあるガチ中華の名店**『四季海岸』**。エレベーターの扉が開いた瞬間、そこには私たちが忘れていた「旅の熱気」が広がっていました。
1. 池袋北口から徒歩2分。そこは「標準中国語」が公用語の世界
池袋駅の北口(西口・北)を出て、雑居ビルが立ち並ぶエリアへ。少し怪しげな、でもどこかワクワクする看板を眺めながらエレベーターに乗り込みます。4階で扉が開いた瞬間、鼻を突くのは強烈なスパイスの香りとニンニクの食欲をそそる匂い。そして、耳を打つのは活気あふれる中国語の濁流です。
「いらっしゃいませ!」という日本語の挨拶はあるものの、店内に充満している空気は100%大陸のそれ。日本のレストラン特有の「お静かに」というマナーはここには存在しません。
どのテーブルも、まるで久しぶりに再会した親戚同士のように大きな声で笑い、語り合い、店員さんも負けじと元気に立ち回る。まさに大陸のエネルギーそのものです。通常の席は「大きな声を出さないと隣の夫との会話もままならない」ほどの賑やかさ。

「静かに、落ち着いて高級感を味わいたい」という方は、事前に個室を予約しておくのがこの旅を成功させるコツですが、この賑やかさこそが、最短で日常を忘れさせてくれる「非日常のBGM」だと感じました。
2. メニューに並ぶ「未知の漢字」という冒険
席につき、ずっしりと重いメニューを開いて驚愕します。私たちがこれまで日本の中華料理店で親しんできた「青椒肉絲」や「麻婆豆腐」、「エビチリ」といった馴染みの名前が、メインのページにはどこにも見当たらないのです。
並んでいるのは、見たこともない漢字の組み合わせと、赤や黒のスパイスが効いたダイナミックな料理の写真ばかり。写真があるものはまだイメージがつきますが、写真がないメニューにいたっては、もはや想像の範疇を超えています。
ここは、日本人向けに「忖度」してアレンジされた味ではありません。**「中国の人が、本場の味を求めて、中国の人のために作る」**聖域。チャーハンひとつとっても、パラパラ加減や具材の使い方が、私たちの知るそれとは一線を画す佇まいです。
「何が来るかわからない」という不安と期待。これこそが、海外のローカル食堂でメニューを指差す時のあの感覚です。
3. 本日のメインイベント:高級魚「アカハタ」を仕留める
夫が今回の「旅」の目的として熱望していたのが、中国の本格魚料理**「カオユ(烤魚)」**です。このお店の最大の特徴は、ホールに設置された大きな水槽(生け簀)。ここから自分が食べる魚を直接選ぶことができるのです。
水槽の前で、生きの良い魚たちを眺めるのは、まるで現地の市場を散策しているような気分。店員さんに「今日のおすすめは?」と尋ねると、網で威勢よくすくい上げてくれたのが、中国で高級魚として重宝される**「アカハタ」**でした。
ここで注意が必要なのが、魚はすべて「時価」であること。重さをその場で量り、金額を提示してくれます。今回提示されたのは、一匹14,000円。
池袋のディナーで1万円超えと聞くと一瞬怯みますが、ここは「海外旅行中」という設定。航空券代が浮いていると考えれば、むしろ安いものです。夫と「せっかくだから最高級のものをいこう」と決め、調理をお願いしました。
4. 焼きと煮込みのハイブリッド「カオユ」の衝撃
さて、聞き慣れない「カオユ(烤魚)」とは一体どんな料理なのか。簡単に説明すると、「焼き」と「煮込み」のハイブリッド料理です。
1. まず、大きな白身魚を炭火やオーブンで表面がカリッとするまで香ばしく焼き上げます。
2. それを、大量のスパイス、ニンニク、野菜、春雨などが投入された特製のスープが張られた巨大な鉄鍋に移します。
3. テーブルの上でコンロに火をかけ、グツグツと煮込みながら、スープの旨味を魚の身に染み込ませていくのです。
今回、私たちは辛いものが苦手なため「辛くない味付け」をオーダーしました。運ばれてきたのは、ニンニクがガツンと効いた白濁スープに、ド迫力のアカハタが鎮座する一皿。

箸を入れると、一度揚げ焼きにされた皮目は香ばしく、中の身は驚くほどホロホロ。日本の繊細な「煮魚」が“静”の料理だとしたら、カオユはまさに“動”の料理。加熱され続けるスープの中で、魚の旨味と野菜の甘みが渾然一体となり、最後の一口まで熱々。骨に気をつけながら夢中で頬張る時間は、まさに至福でした。
5. 鉄串の洗礼と、中国ソフトドリンクの愉しみ
魚が炊き上がるのを待つ間に注文したのが、中国式の串焼き。日本でいう焼き鳥のような位置付けですが、出てきたのは竹串ではなく、**「熱々の鉄の串」**に刺さった羊肉とエビです。


「あつっ!」と言いながら、鉄串を慎重に持つ。この不器用な体験さえも、現地流の洗礼を受けているようで楽しいものです。羊肉はクミンなどのスパイスが効いていて、噛むほどに異国の味が広がります。
お酒を飲まない私たち夫婦を喜ばせたのは、バラエティ豊かな中国ソフトドリンク。
日本では見たこともない漢字一文字の缶や、独特なイラストが描かれたボトル。「これはお茶かな?」「いや、果物かも」と想像を膨らませながら一口飲む。そんな些細な挑戦が、食事をより「冒険」に変えてくれました。
6. コスパ検証:15万円の航空券 vs 池袋の1.5万円
ここで、今回の「池袋旅」と「中国現地旅」のコストを冷静に比較してみましょう。
【中国現地(北京や上海など)へ行く場合】
・移動時間:飛行機で片道3〜4時間
・航空券代:10万円〜15万円(燃油サーチャージ込み)
・宿泊費:1泊1.5万円〜(2泊3日なら3万円〜)
・パスポート:必須(申請料1.6万円、有効期限の確認が必要)
・お会計:現地価格(現在は円安のため、日本円換算すると高額に)
・帰り道:数時間のフライト、入国審査、税関、重いスーツケース
【池袋「四季海岸」で済ませる場合】
・移動時間:電車で数十分
・航空券代:0円
・宿泊費:0円(自分のベッドで寝られる)
・パスポート:不要
・お会計:14,000円(高級魚を2人でシェア。お腹いっぱい!)
・帰り道:山手線や地下鉄で、スマホを見ている間に帰宅
こうして比較すると、改めて「国内で現地を探す旅」の賢さが際立ちます。浮いた10万円以上の予算があれば、あと10回は日本国内で「別の国」へ旅に出ることができるのです。
7. 帰り道もスマートに。「神パッキング」の秘密
このお店で感動したポイントがもう一つ。それが、食べきれなかった料理の「お持ち帰り(打包:ダーバオ)」です。
カオユは2人で食べるにはあまりにも巨大。私たちは残った分を包んでもらうことにしました。
驚いたのはそのパッキング技術です。
よくあるプラスチック容器に輪ゴム、といった簡易的なものではありません。タピオカドリンクの蓋を閉める機械のように、容器の口を専用のフィルムで「熱圧着」して完全密閉してくれるのです。

この「神パッキング」のおかげで、以下の不安がすべて解消されました。
・匂い:ニンニクの強烈な香りが、電車内で漏れる心配ゼロ。
・液漏れ:スープたっぷりのカオユですが、多少揺れても、走っても、カバンの中でこぼれる心配なし。
翌日のランチ、自宅の鍋で温め直したカオユは、さらに味が染み込んでいて最高に美味しかったです。一度の来店で二度美味しい。これもまた、国内ガチ中華ならではの贅沢な楽しみ方と言えるでしょう。
8. 結び:パスポートを持たずに、扉を開けよう
「海外旅行に行けない」と嘆く時間はもったいない。
今の時代、私たちが本当に求めているのは「物理的な距離の移動」ではなく、「心が揺さぶられるような非日常の体験」ではないでしょうか。
池袋の雑居ビルの4階。その重い扉を開けるだけで、そこには言葉も、匂いも、味も、人々のエネルギーも、すべてが日本とは違う世界が待っています。

店員さんは日本語も通じますし、初めての方でも大丈夫。少しの勇気を持って「生け簀の魚」を選べば、そこからあなたの冒険が始まります。15万円の航空券を買う前に、まずは池袋行きの切符を握りしめてみてください。
さて、次はどこの国へチェックインしましょうか。私たちの「国内海外気分」を探す旅は、まだ始まったばかりです。
【今回の旅先データ:四季海岸(池袋)】
・アクセス:池袋駅北口(西口・北)から徒歩約2分
・予算目安:1人4,000円〜8,000円(高級魚のカオユを頼む場合は1.5万円前後を想定)
・ポイント:
1. 魚は時価なので、量る前に金額を確認するのがおすすめ。
2. 食べきれない分は、ぜひ密閉パッキングでお持ち帰りを。
3. 週末の夜は非常に混み合うので、予約、特に個室の希望は早めがベスト。
