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涙よりも、叫び声を。映画『最高の人生の見つけ方』が残した熱狂の余韻。

「もし、あなたの人生が残りわずかだと言われたら、あなたは何をしますか?」

そんな問いかけから始まる物語は、たいてい涙で終わる悲劇だと思っていました。しかし、先日観た映画『最高の人生の見つけ方』は、私のそんな固定観念を鮮やかに、そして爽快に裏切ってくれました。

今回私が鑑賞したのは、2019年に公開された日本版のリメイク。吉永小百合さんと天海祐希さんという、日本を代表する二大女優が共演し、性別を女性に置き換えて描かれた感動作です。

1. 「Bucket List」という言葉の重み

ご存知の方も多いかもしれませんが、この作品には2007年に公開された**アメリカのオリジナル版(原題:The Bucket List)**が存在します。ジャック・ニコルソンとモーガン・フリーマンという名優二人が主演した英語版は、「偏屈な大富豪」と「博識な自動車整備士」という男性二人の友情を描いたものでした。

英語の原題にある「Bucket List」は、英語の慣用句で死ぬことを意味する “kick the bucket(バケツを蹴る)” からきており、この映画がきっかけで「死ぬまでにやりたいことリスト」という言葉が世界中に広まりました。

一方、日本版は主人公を女性二人に置き換えたことで、より「家庭」や「キャリア」といった、現代を生きる私たちが直面するリアリティに深く切り込んでいます。リストを作るきっかけも、自分たちの願いだけでなく「入院先で出会った12歳の少女のリストを代わりに叶える」という設定。この「誰かのために動く」という日本らしい情緒が、物語に温かい深みを与えています。

2. 人生の価値を問う「二つの質問」

映画の中で、最も私の心に深く刻まれた言葉があります。それは、オリジナル版でも象徴的に使われ、日本版でもその精神が引き継がれている「古代エジプトの言い伝え」についての引用です。

「天国の門で、神様は二つの質問をする。 一つは、『人生において喜びを見つけたか?』 もう一つは、『あなたの人生は他人に喜びを与えたか?』」

この言葉を聴いたとき、私は思わず自問自答してしまいました。 日々の忙しさに追われ、自分自身の「喜び」を後回しにしていなかったか。そして、自分が輝くことで誰かを幸せにすることを忘れていなかったか。

「死」を意識したとき、最後に残るのは「どれだけ稼いだか」や「どんな役職だったか」ではなく、この二つの問いに対する答えだけなのだと、映画は教えてくれます。

3. 「死」という恐怖の先にある、本当の贅沢

映画を観ながら、私は「死」ということについて深く考えさせられました。 普通、「死」と言えば、恐怖や悲しみ、喪失といったマイナスのイメージばかりが先行してしまいます。私自身、そういった暗い側面ばかりを考えてしまい、思考が止まってしまうことがよくありました。

劇中の二人は、癌であり、末期であるという過酷な現実に直面します。でも、だからこそ彼女たちは、残りの人生で「本当にやりたいこと」をやって楽しむという選択ができました。その姿は、悲劇というよりも、人生を最高に豊かに締めくくろうとする力強いエネルギーに満ちていました。

ここで私はハッとしたのです。 彼女たちは「終わり」がわかっていたからこそ、リストを進めることができたのではないか。もしこれが突然の事故だったら? 残りの時間がわからないまま人生が終わるとしたら?

私たちは、いつか死ぬことがわかっていながら、どこかで「自分だけは明日も生きている」と錯覚しています。でも、現実はそうではない。「いつか」なんて言っているうちに、人生が幕を閉じてしまうかもしれない。そう思ったとき、今この瞬間からバケットリストを作成し、進めていかない限り、人生の終わりに「最高だったな」と心から思うことはできないのだと痛感しました。

4. 魂が震える「ライブ感」の再発見

スクリーン越しに伝わってくるのは、死への恐怖を塗り替えるような、圧倒的な「生の熱狂」でした。

  • アメリカの空を舞う、スカイダイビングの爽快感 高い空から見下ろす世界は、きっと病室で悩んでいた日々をちっぽけに思わせてくれたはずです。
  • ももクロのライブでの叫びと、私自身の記憶 70代の女性二人が、全力で声を上げるライブシーン。その姿を見て、私は少し前に行った**「舞台」の記憶**が鮮明に蘇りました。宮藤官九郎さんが手掛け、松たか子さんや阿部サダヲさんが出演されていたあの舞台。 テレビの画面越しではなく、すぐ目の前で俳優さんたちが汗を流し、生の歌声がダイレクトに鼓膜に届くあの感覚。「ライブ感」とは、その瞬間にしかない臨場感であり、自分の心臓の鼓動が会場の音と重なるような感覚です。映画の中の二人の姿は、まさに私が舞台を観て感動したあの時のように、生命の灯を燃やしているように見えました。映像技術が進歩しても、やはり「その場にいる」ことでしか得られない栄養が人間には必要なのだと痛感します。

5. 私自身の「バケットリスト」と、これからの決意

映画の余韻の中で、私も自分のリストを書き出してみました。

  • 豪華客船で、時間を忘れて巡るクルーズ旅行
  • 夜空をカーテンのように埋め尽くすオーロラをこの目で見る
  • 飛行機のビジネス・ファーストクラスで、最高の移動体験を味わう
  • イタリアでACミランの熱狂に包まれ、アメリカでNBAの熱戦に酔いしれる
  • そして、今の季節なら——東京ディズニーランドの巨大なクリスマスツリーの下で、特別な冬の空気を感じたい

これらは今、即席で思い浮かんだものです。だからこそ、これからもっと自分自身と深く向き合って、心の奥底にある「本当の願い」を形にしていきたいと思っています。

そして、リストを作るだけで終わりにせず、今できることから実際に進めていくこと。イタリアへの準備を始めるのか、次の舞台のチケットを探すのか。リストが更新され、それが実行されるたびに、私の人生は「最高」へと近づいていくのだと信じています。

結びに:人生の幕をどう下ろすか

この映画が教えてくれたのは、死が近いからリストを作るのではなく、リストを作ることで人生に再び命を吹き込むことができるということでした。

「私たちは皆、死ぬ。でも、皆が本当に生きているわけではない。」

そんな言葉をどこかで聞いたことがありますが、この映画の主人公たちは間違いなく、最後の瞬間まで「生きて」いました。

涙を流して終わる人生よりも、好きなものの名前を叫び、見たかった景色に息を呑む人生でありたい。 「もっとやりたいことはたくさんあるはず」。そう気づけた瞬間に、新しい人生は始まっています。

この記事を読んでくださっているあなたなら、そのリストの一行目に、まず何と書き込みますか? 私のリストは、これからもっともっと、長く厚くなっていくはずです。そして、その一つひとつを叶えていく旅は、もう始まっています。