「眉毛を変えただけで、こんなに世界が変わるなんて、思ってもみませんでした」
一番身近な存在である夫に、ある日ぽつりと「……なんか、その眉毛、変だよ」と言われたことから始まった、私の眉毛改革。最初はショックで、ちょっぴり拗ねてしまったけれど、あの言葉がなければ今の私はありません。思い切って眉毛サロンの門を叩き、プロの手で整えてもらったその後の変化は、単に「見た目が綺麗になった」という表面的なものだけではありませんでした。
それは、1〜2年前に直面してなす術なく諦めた「30万円の美容医療」という高い高い壁の挫折を乗り越え、今の自分にちょうどいい「美への投資」のバランスを見つける旅の始まりでもあったのです。
新しく私のGoogle Keepに書き加えられたバケットリストの新章「肌にいいこと10個する」への記念すべき第一歩。そして、眉毛を整えただけで毎日の通勤路や街の見え方がガラリと変わってしまった、不思議で愛おしい体験を、等身大の言葉で綴ってみたいと思います。
眉毛を整えたら、街の景色が「自分事」に変わった
眉毛サロンでプロの方に私の骨格に合わせた「黄金比」を教えてもらい、顔ワックスで余分な産毛を根元からすっきりと抜いてもらって、ツルツルの肌を手に入れてから数日。私の世界の見え方は、驚くほど劇的に変わりました。
これまで、仕事への行き帰りに何百回、何千回と歩いていたはずの地元の見慣れた道。 そこには、以前からずっとあったはずの「眉毛サロン」「美肌 wax」「髪質改善専門店」といった看板が、あちこちに立っていました。でも、これまでの私はそれらをただの「背景のノイズ」として完全にスルーしていたのです。風景の一部として網膜を通り過ぎていただけでした。
人間の脳の仕組みには、本当に不思議なものがあります。「心理学でいう『カラーバス効果』のようなもの」と言えばいいでしょうか。自分が一度その物事を強く意識し始めた瞬間に、それに関連する情報が、まるで磁石に吸い寄せられるかのように次々と目に飛び込んでくるようになります。
今、私の目に入る街の情報は、かつての「素通りする景色」から、「もっと自分を良くするためのヒントが詰まった宝箱」へと変わりました。 コンプレックスの一つで、ずっと見て見ぬふりをしていた髪質についても、「いつもは縮毛矯正でごまかしていたけれど、次はあそこの看板に出ていた『髪質改善』のお店で、じっくり相談してみようかな」と、自然に前向きな選択肢を持てるようになっている自分に、何よりも私自身が一番驚いています。
1〜2年前の挫折:美容皮膚科で突きつけられた「30万円の壁」
こうして今の私が、数千円の投資から軽やかに、前向きに動けているのは、実は過去の苦い「挫折」があったからこそかもしれません。
時計の針を1〜2年ほど巻き戻してみます。当時の私は、「すっぴんでも綺麗な人になりたい」「ファンデーションを厚塗りしなくても、堂々と外を歩けるようになりたい」という切実な憧れを胸に、意を決してある高名な美容皮膚科のカウンセリングに足を運んだことがありました。 狙いは、顔全体の医療脱毛と、毛穴や色むらを整えるための肌の総合的なメンテナンス。
個室に通され、綺麗なコンシェルジュの方に丁寧にお肌を診断してもらい、出てきたプランの見積書。そこに書かれていた数字を見て、私は文字通り目玉が飛び出るほど驚きました。
総額、30万円弱――。
初めての本格的な美容医療のカウンセリング。まさか一気にこれほどの手元資金が必要になるとは思ってもみず、頭の中が真っ白になりました。「毎月洋服やカフェ代を我慢すれば払える?」「でもこれ、一括? 分割?」頭の中で電卓が激しく回ります。 家に帰って恐る恐る夫に相談してみたものの、返ってきたのはやはり「うーん、さすがにちょっと高いね……」という至極真っ当な、そして困惑混じりの反応でした。
夫の反応以上に私を悩ませたのは、自分自身の内側から湧き上がる不安でした。 「この30万円のコースが終わったとき、私は本当に100%満足できているんだろうか?」 「もし効果が切れたら、また30万円を払い続けなきゃいけないの?」 「一回始めたら辞められなくなる、終わりなき旅なんじゃないか……」
決してそのクリニックが怪しいわけではなく、むしろ予約が取れないほど人気で、口コミも素晴らしい、信頼できる場所でした。だからこそ、「そこに投資できない自分」の経済力や思い切りの悪さに、余計に落ち込んでしまったのです。当時の私にとって、30万円はあまりに高すぎる、そびえ立つ壁でした。
「やるなら、誰もが認める完璧なところで、最高峰の治療をやらなきゃ意味がない。でもお金もかかるし、通うのは遠くてストレスだし、今の私には身の丈に合わないんだ」
そうやって、できない理由を綺麗に整列させて理屈を並べ、自分を納得させて諦めました。その結果、何も変えられないまま、ただ時間だけが1年、2年と虚しく過ぎていってしまったのです。いわゆる「0か100か」の思考に陥り、100ができないなら0でいい、と極端にシャッターを閉めてしまっていたのでした。
電車は「美の教科書」、YouTubeは私の「攻略本」
そんな「0の状態」で停滞していた私ですが、眉毛サロンをきっかけに、日常のあらゆる場所が学びの場へと姿を変え始めました。最近の私の主な勉強場所は、毎日の通勤電車の中です。
以前の私は、満員電車に揺られながら、死んだ魚のような目でぼーっとスマホのSNSのタイムラインをスクロールしたり、ネットニュースを何となく眺めたりして時間を潰していました。 しかし、プロに綺麗に整えてもらった自分の眉毛を毎朝鏡で見るようになってからは、周囲の乗客の方々の「メイク」や「顔のパーツ」に、自然とポジティブな興味の目が向くようになったのです。
失礼にならない程度に、心のパレットにメモを取るように観察します。 「あ、向かいに座っている方、アイラインの引き方がすごく繊細で、目元が綺麗に見えるな」 「あの斜め前にいる方の眉毛の形、自眉を活かしていてすごく自然で素敵。アイブロウのマスカラは何色を使っているんだろう?」
そうやって、街や電車の中で「素敵だな」と思う人を見つけると、駅に着いてから、あるいは隙間時間にすぐさまスマホでYouTubeを開きます。 「30代 メイク ナチュラル」「垢抜け アイライン 引き方」「イエベ秋 アイブロウ」など、自分に合いそうなキーワードを叩き込み、動画を貪るように研究するのです。お気に入りのテクニックや、プロのヘアメイク職人が語る「崩れないベースメイクのコツ」を見つけたら、忘れないようにスマホのメモ帳(Keepのバケットリストの下の自由欄)に、コツを事細かに書き留めます。
いつもの退屈だった通勤電車という日常の空間が、今の私にとっては、一銭も払わずに最先端のトレンドを学べる最高の「美の教室」に変わった瞬間でした。
もちろん、動画の中で美容系YouTuberの方々が「これ、本当に人生変わるレベルで名品です!」と紹介しているデパコス(デパートコスメ)の数々を、すべて右から左へと買い揃えるのは、私のお財布事情を考えると到底現実的ではありません。美容用品はこだわり始めれば本当にキリがなく、1本数千円から1万円を超えるものまでザラにあります。全部を真似しようとすれば、あっという間に生活費が破綻してしまいます。
でも、私は今年で33歳。30代という年齢の重みもまた、リアルに感じています。 「そろそろ本気で自分の肌や顔と向き合っておかないと、10年後、20年後の将来の自分に、申し訳ないことになってしまうかもしれない」という、かすかな焦りと不安もあるのです。 「全部を最高級品にするのは無理。でも、毎日使うもののうち、一部だけでも本当に成分が良いものや、自分の肌に合うものを取り入れて、将来の肌のために備えたい」
そうやって、YouTubeという膨大な「攻略本」から自分なりに情報を取捨選択し、予算と相談しながら、メモした知識を握りしめて薬局やアットコスメのお店へ向かう時間。それは、これまでの「なんとなく消耗して、なんとなく過ごしていた毎日」とは全く違う、お腹の底から湧き上がるようなワクワクした熱量に満ちています。
30代の焦りと「全部は無理」という現実の狭間で
動画やSNSを見ていると、どうしても華やかな世界に引っ張られ、「あれも欲しい、これも買わなきゃ綺麗になれない気がする」と、物欲と焦燥感が膨らんでしまいそうになります。でも、現実はそう甘くありません。先ほども言ったように、美容用品って、凝り始めると本当に、びっくりするほどお金がかかるのです。
クレンジング、洗顔、導入美容液、化粧水、乳液、クリーム、日焼け止め、下地、ファンデーション、コンシーラー、パウダー、アイブロウペンシル、アイブロウパウダー、眉マスカラ……。これらを全て一線級のブランドで揃えたら、いくらあっても足りません。家計を守る主婦として、また自分の将来のための貯蓄を考える身として、そこへ湯水のように お金を注ぎ込むわけにはいかないのが現実です。
それでも、「だったら、お金がかかるからもう何も読まない、何もしない」という、かつての諦めの選択肢に戻るつもりは、もう毛頭ありません。
30代という、お肌の曲がり角をとうに過ぎた年齢。今、ここで自分の肌を労わり、正しい手入れの知識を身につけて実践しておくか、それとも「どうせ私なんて」と放り出してしまうか。その分岐点が、10年後、20年後の自分の肌に、そして鏡を見たときの自分の笑顔に、決定的な差となって現れる。その漠然とした、けれど確実な予感が、今の私を心地よく突き動かしているのです。
だからこそ、私は自分の中でひとつの明確な「ルール」を決めました。 「全部を完璧にするのは無理。でも、一部だけでも、今の自分に投資できるベストなものを取り入れる」
予算には限りがあるけれど、その中で「これだけは肌の土台のためにケチらない」「ここはドラッグストアの優秀なプチプラ(低価格)アイテムで賢く抑える」といった、自分にとってのベストな投資ポイントを絞り込んでいく。完璧な100点満点を目指して自滅するのではなく、70点でも80点でも、持続可能で、自分がハッピーになれる綺麗な肌を目指していこう、と思えるようになりました。
「完璧」よりも「今の自分」にちょうどいい一歩
今回の眉毛サロンでの小さな、けれど確実な成功体験は、私の「0か100か」という、これまでの極端な思考の癖を綺麗に塗り替えてくれました。
いきなり数十万円をドカンと投じて、一瞬で完璧な美肌と理想の顔を手に入れるのは、ハードルが高すぎて挫折してしまう。けれど、数千円というお小遣いの範囲の予算で眉毛サロンに行き、プロの手で形を整えてもらうことは、今すぐ私にだってできる。そして、そこから始まる「教えてもらった形を維持するために、自分で毎日鏡を見てケアする」という行動は、今の私にとって、背伸びをしない、一番ちょうどいい心地よさの投資なのだと気づけたのです。
かつて「やりたいことリスト」に載せていた、数万円する眉毛のアートメイク(皮膚に色素を入れる施術)についても、今でもバケットリストの大切な目標として残してはいます。けれど、「早くやらなきゃ」と焦って無理に予約を入れようとは思いません。
まずは、今のサロンのプロの方に綺麗に整えてもらった眉毛の形や、毛の流れ、顔全体の印象の変化を、日々の生活の中でじっくりと観察したい。そして、「私にはこういうニュアンスの形が似合うんだな」「この色味だと顔が明るく見えるな」と、自分自身の顔と丁寧に向き合う時間そのものを、ゆっくりと楽しみたいと思っています。その試行錯誤のプロセスこそが、私を内側から輝かせてくれるリッチな時間だと知ったからです。
バケットリスト新章:「肌にいいこと10個する」への挑戦
眉毛を整え、自分の顔に少しだけ自信が持てたことで、私の心には小さな、けれど消えない「火」が灯りました。この勢いを消したくない。そう思った私は、長らく更新していなかったデジタルバケットリストを開き、新しいプロジェクトを始動させることにしました。
それが、「肌にいいこと10個する」という、私なりのささやかな挑戦のリストです。
過去に美容皮膚科に行けず、30万円の壁の前で立ち尽くして何もできなかったことを、今さら悔やむ必要はまったくありません。あれはあの時の私のベストな判断だった。そう受け入れた上で、今の私にできる「肌にいいこと:1つ目」として、毎日使う「スキンケアとベースメイクの見直し」から始めることにしました。
これまでの私は、化粧品を選ぶ基準といえば、 「ドラッグストアのポイントが5倍つくから」 「とりあえずセールで安くなっているから」 「もうずっとこれを使っていて、変えるのが面倒だから、なんとなく」 という、どこか消極的で、自分の肌の声を無視した選び方ばかりをしていました。
でも、今回の私は違います。 仕事帰りに、普段なら気後れして通り過ぎていたアットコスメの大型店舗へ、しっかりと足を運びました。 キラキラした店内に圧倒されそうになりながらも、スマホのメモを片手に、商品のポップに書かれている「アットコスメ ランキング第1位」や、長年多くの人に愛されてきた証である「殿堂入り」のゴールドに輝くマークを、ひとつひとつ宝探しのようにチェックしていきました。
単に高いものを買うのではなく、多くのユーザーに実際に選ばれ、厳しいレビューを勝ち抜いてきた「ベストコスメ」の実力派たちを中心に、今の私の肌悩み(乾燥や毛穴の目立ち)に本当に合うものはどれだろうと、真剣に、そして最高にワクワクしながら選び抜きました。
薬局で迷い、プロに学び、試行錯誤する毎日
アットコスメで目星をつけたアイテムを参考にしつつ、現在の私の主戦場は、身近なドラッグストア(薬局)です。ここで手に入る、いわゆる「プチプラ実力派」や「高機能スキンケア」を、お財布と相談しながら少しずつ買い揃えています。
もちろん、今使っている基礎化粧品を無駄にするのはもったいないので、それらを「使い切るタイミング」に合わせて、一本ずつ丁寧に、新しいお気に入りの選手へとバトンタッチさせています。「この化粧水、翌朝のお肌のもっちり感が全然違う! 私の肌に合っているな」と思えば継続し、もし少し違和感があれば、使い切った後にまた別の選択肢を試してみる。かつては義務であり、面倒でしかなかった「正解を探すルーティン」の過程そのものを、今は実験のように楽しもうと心に決めています。
ただ、すべてが順風満帆というわけではありません。 眉毛に関しても、サロンの施術の最後にスタッフのお姉さんが使ってくれた、あの絶妙な色合いのアイブロウペンシルと眉マスカラを求めて薬局のコスメコーナーへ走ったのですが……これが本当に難しかった!
棚の前に立つと、似たような茶色やグレーのペンシルが何十種類と並んでいます。太さも違えば、ブラシの形も違う。 「えっ、あの時お姉さんが言っていた『アッシュブラウン』ってどれ!? メーカーによって全然色が違うじゃない……何が何だかわからない……」と、頭を抱えて戸惑ってしまいました。
棚の前で散々悩み、スマホで動画を検索し直し、なんとかサロンで使ってもらったものに一番近いと思われる色と形のアイテムを選んで購入しました。 おうちの鏡の前での「描き方」の再現は、正直に言ってまだまだ練習中です。左右のバランスが崩れて「あれ?」となったり、濃くなりすぎて慌てて綿棒でぼかしたりする毎日。
けれど、今まで「ただ伸びてきたから、とりあえずハサミで剃る」だけだった事務的で退屈な時間が、「どうすればもっと自分に合う色になるか、綺麗な形を描けるか」を追求する、前向きでワクワクする時間へと180度変わったのです。
「ポイント優先」から「自分に合うか」へ。毎朝の私を愛する時間
これまでは、買い物の利便性や、ポイントの還元率、あるいは100円でも安いかどうかということばかりを最優先にして選んでいた私の化粧品たち。
でも今の私は、ドラッグストアの鏡の前やアットコスメの店頭で、ランキングをチェックしたり、殿堂入りのアイテムの成分表示をじっくり眺めたりしながら、 「これは本当に、今の私の肌が喜んでいるかな?」 「私の肌に、ちゃんと合っているかな?」 と、自分の心とお肌に優しく問いかけるようになりました。買い物の基準が「他者(価格やポイント)」から「自分(肌への効果とうるおい)」へと、美しくシフトしたのです。
いきなり高級なデパコスに手を出す必要はありません。日本の薬局で手に入る、日本のメーカーがこだわり抜いて作った「多くの人に選ばれている名品」から始め、少しずつ、私のドレッサーの上に自分にぴったりの少数精鋭のラインナップを揃えていく。
毎朝、新しく買ったアイブロウペンシルを握りしめ、苦戦しながらも丁寧に眉を描き、お気に入りの化粧水でお肌を潤す。鏡の中で自分の顔とまっすぐに向き合うその1分1秒は、今の私にとって、何にも代えがたい「自分を大切にし、自分を愛するための時間」そのものになっています。
おわりに:コンプレックスと共に、ちょっとだけ堂々と
長々と書いてきましたが、私は今でも、自分に100%の自信があるわけではありません。鏡を見れば、相変わらず毛穴は気になるし、他にも直したいパーツを挙げればキリがありません。
でも、たった数千円で眉毛をプロに整えてもらい、YouTubeで真剣に学び、自分で納得して選んだお気に入りの化粧水を1本手に入れた。ただそれだけで、毎日の街を歩くときの私の「視線の高さ」が、少しだけ、確実に上がりました。
今までなら、すっぴんに近い自信のない顔を見られるのが嫌で、街で誰かと目が合うのを避けるように、なんとなくスマホを見つめて下を向いて歩いていたのに。 今の私は、前を向いて歩き、新しくできたお店の看板の文字を追い、街の変化を楽しんでいます。
「変だよ」という、最初はちょっぴり突き刺さるような言葉をくれた夫。以前の私なら「ひどい!」と怒って終わっていたかもしれないその一言も、今では、私を新しくアップデートするための素晴らしいきっかけをくれたんだな、と心から感謝できるようになりました。今の私を見た夫も、「なんか最近、雰囲気明るくなったね」と嬉しそうに言ってくれています。
私のデジタルバケットリストは、全部で100個以上。今回の眉毛改革とスキンケアの見直しを経て、残りもまだまだあります。
「肌にいいこと10個する」のリストは、まだ始まったばかり。 次はどんな素敵な「肌にいいこと」を見つけようか。お風呂上がりに、ワックス脱毛のおかげで驚くほどツルツルになった自分の眉の周りの肌にそっと触れながら、一歩ずつ、自分が好きになれる「理想の自分」への階段を、楽しみながら登っていきます。
