人生でやりたいことを書き留めている私の「バケットリスト(死ぬまでにやりたいことリスト)」。そのリストの中にずっと大切に書き残していた大きな目標のひとつが、「本場のミュージカル『CHICAGO(シカゴ)』を観劇する」という項目でした。
この度、夏の終わりに渋谷・東急シアターオーブで開催されたブロードウェイ来日公演へ夫と一緒に足を運び、念願だったその夢をついに叶えることができました!

今回は、かつてのアメリカ・ニューヨーク旅行で味わった「観劇の迷いと宿題」から、来日公演を知った瞬間の高揚感、渋谷ヒカリエおよび東急シアターオーブの混雑回避テクニックやおトクな食事術、全編英語上演+日本語字幕でのリアルな見え方、そして作品の奥深い見どころやアメリカならではの舞台文化まで、余すところなく徹底的にレポートします。
これから東急シアターオーブで海外ミュージカルを観劇される方や、英語ミュージカルの鑑賞に不安がある方にとっても役立つ情報をギュッと凝縮しましたので、ぜひ最後までお付き合いください!
バケットリストに入れた理由|ニューヨーク旅行での「観劇迷い」と心残りの物語
私が『シカゴ』という作品をバケットリストに刻むことになった原点は、以前訪れたアメリカ・ニューヨークへの旅にあります。
世界のエンタメの頂点、ブロードウェイでの究極の2択
世界中の演劇ファンが集まる街、ニューヨーク。その中心に輝くブロードウェイ(Broadway)で本場のミュージカルを肌で体感することは、私にとってニューヨーク旅行における絶対外せない最大のメインイベントでした。
旅行の計画を立てる際、タイムズスクエア周辺に立ち並ぶ数々の劇場ラインナップを前にして、私は最後の最後まで頭を抱えて悩み抜いていました。その最大の理由が、ディズニーのメガヒット作『アラジン(Aladdin)』と、トニー賞をはじめ数々の栄冠に輝く不朽の名作『シカゴ(CHICAGO)』のどちらを観るべきか、という究極の2択に直面したからです。
どちらも世界的な大人気作であり、甲乙つけがたい魅力に満ち溢れていました。 しかし、英語が母国語ではなくリスニングに強い自信があるわけではなかった当時の私は、「まずはストーリーが直感的にわかりやすく、壮大な仕掛けや舞台装置で視覚的にも楽しめる作品のほうが安心かもしれない」と考え、日本出発前に『アラジン』のチケットを事前予約することに決めました。
ニュー・アムステルダム劇場で体験した『アラジン』のステージは、まさに圧巻の一言。ジーニーが歌い踊る『Friend Like Me』の爆発的な熱狂、客席全体を包み込む歓声とスタンディングオベーション、そして目の前で本物の魔法のように宙を飛ぶ魔法の絨毯に言葉を失うほど感動し、「本場ブロードウェイのエンターテインメントって、こんなにも人の心を揺さぶるんだ!」と、ミュージカルの持つ底知れない力にすっかり心を奪われてしまったのです。
「もう1本観たい!」TKTSへの淡い期待と、体力の限界
『アラジン』の興奮が冷めやらない中、私の心の中にはある強い欲が湧き上がっていました。
「ニューヨークに滞在しているこの貴重な時間の中で、もう1本、諦めかけた『シカゴ』も観られないだろうか?」
ニューヨークの街、特にタイムズスクエアの象徴的な赤い階段の下には、「TKTS(チケッツ)」と呼ばれる有名な当日券割引ブースがあります。当日の公演で空席があるチケットが、定価の20%〜50%オフといったお得な価格で販売されるスポットです。「もしかしたらシカゴも、TKTSの当日券でお得にサクッと手に入るワンチャンがあるのではないか?」と、淡い期待を抱いていました。
しかし、現実はそう甘くはありませんでした。 ニューヨークという街は、とにかく見どころが尽きません。自由の女神を望むフェリー、空高くそびえ立つ展望台、世界屈指のコレクションを誇る美術館、広大なセントラルパークの散策、そして魅力的なショップやカフェ巡り……。
行きたい観光スポットを自分のペースでゆったり満喫していると、1日があっという間に過ぎ去ってしまいます。慣れない海外での長距離移動や時差の影響もあり、夕方を過ぎる頃には足腰もパンパン。夜にもう一度劇場街へ出向き、長蛇の列に並んで当日券を狙い、2時間半の舞台を集中して観劇するだけの時間も体力も、正直どこにも残っていませんでした。
「今回は時間が足りなかったけれど、無理に詰め込みすぎないのが私の旅のスタイル。いつかまたニューヨークを再訪するための大きな口実ができたと思えばいい!」
そう自分に言い聞かせ、『シカゴ』の観劇は「旅の宿題」として、大切に私のバケットリストノートへと書き加えられることになったのです。
まさかの日本上陸!全編英語×日本語字幕という絶好のチャンス到来
ニューヨークから帰国してしばらく経ったある日のこと。インターネットのエンタメニュースをチェックしていた私は、思わず目を疑うようなビッグニュースに飛びつきました。
「ブロードウェイミュージカル『CHICAGO』来日公演決定!」
あの時、ニューヨークのタイムズスクエアでポスターを見上げながら「いつか必ず観たい」と願っていたあの名作が、海を越えて日本へやってくるというのです。
英語が苦手な私にとって「日本公演」はまさに奇跡のシチュエーション
実はニューヨーク旅行の情報を調べていた当時、多くの旅行記やミュージカルファンの方々が「シカゴは絶対に一度は観るべき大傑作」と絶賛しているのを目にしていたものの、私自身はジャズ調の音楽や有名なビジュアルを知っている程度で、物語の詳細なプロットまでは把握していませんでした。
「次回ニューヨークへ行けた時に、しっかり予習してから観に行こう」と考えていたのですが、今回の来日公演の概要を読み進めるうちに、これが自分にとってどれほど恵まれたチャンスであるかを理解しました。
- 本場ブロードウェイのキャストによる全編英語上演
- ステージ左右の特設スクリーンによる完全日本語字幕付き
これこそ、まさに私が求めていた理想の鑑賞スタイルでした。 英語が聞き取れない私にとって、本場のブロードウェイの劇場で予備知識なしに全編英語劇を観るのは、どうしても言葉の壁という大きなハードルが立ちはだかります。登場人物たちが繰り広げる皮肉たっぷりの会話劇や、法廷でのスピーディーな論戦、ユーモアあふれる歌詞のニュアンスを理解しきれないまま終わってしまう恐れがありました。
しかし、日本で開催されるこの来日公演であれば、本場の俳優陣が放つ生の英語の響き、ダイナミックな発声、本場の空気感をそのまま浴びながら、日本語字幕のサポートによって物語の細部や登場人物の心理描写まで100%リアルタイムで理解することができます。
「これは逃してはならない最高のチャンスだ!」と確信した私は、すぐに夫に相談しました。「ニューヨークで気になっていたシカゴが日本に来るんだけど、一緒に行かない?」と話を持ちかけると、夫も「いいね、ぜひ観に行こう!」と快く賛同してくれました。
チケット発売日には気合を入れて予約サイトにアクセスし、無事に座席を確保。夏の終わりの8月公演に向けて、胸の高鳴りを抑えきれない日々が始まりました。
会場は渋谷「東急シアターオーブ」!当日の混雑対策&おトクな食事術
待ちに待った観劇当日。青空が広がる夏の終わりの日、私たちは会場となる東京・渋谷の「東急シアターオーブ(TOKYU THEATRE Orb)」へと向かいました。私にとっては今回が初めて訪れる劇場です。
渋谷ヒカリエ11階へ直行!「チケトク」でお得な本格中華ランチ
東急シアターオーブは、JR・地下鉄各線の渋谷駅と直結している高層複合施設「渋谷ヒカリエ」の11階〜16階に位置しています。駅直結なので、夏の暑い日や雨の日でも外を歩くことなくアクセスできるのは非常に嬉しいポイントです。
今回は12:30開演(12:00開場)の回だったため、まずは腹ごしらえをしようと、少し早めにヒカリエに到着してレストランフロアへ向かいました。
ここで、これからシアターオーブへ観劇に行かれる方に絶対に知っておいてほしいのが、渋谷ヒカリエ内で実施されている「チケトク」サービスです。
【渋谷ヒカリエ「チケトク」のお得な利用法】
・対象:当日の東急シアターオーブ観劇チケット(紙チケットまたは電子チケット画面)をお持ちの方
・利用方法:対象店舗での注文時またはお会計時にチケットを提示するだけ
・特典内容:飲食代金の5%〜10%割引、ワンドリンクサービス、特製デザートのプレゼントなど(店舗により異なる)
私たちはヒカリエのレストランフロアにある中華料理店を選び、チケットを提示してサービスを受けながら、美味しいランチに舌鼓を打ちました。観劇前のワクワク感を語り合いながら、美味しい食事をお得に楽しめるこのサービスは、観劇体験の満足度を一段と高めてくれます。
【超重要】11階行き直通エレベーターの罠!大混雑を避けるタイムスケジュール
ランチを終えて時計を見ると、開場時刻の12:00が近づいていました。「そろそろ劇場へ向かおうか」とエレベーターホールへ向かったのですが、ここで今回の観劇で最も驚いた出来事に遭遇しました。
それが、「11階スカイロビー行き直通エレベーターの大混雑」です。
東急シアターオーブのメインエントランスがある11階へ上がるには、ヒカリエ低層階から直通エレベーターを利用するのが基本ルートとなります。しかし、開場時刻が近づくにつれて、観劇に訪れた何百人もの観客が一斉にエレベーター乗り場へと押し寄せるのです。
- 開場時間(12:00前後)が混雑のピークエレベーターホールの前には何重もの長蛇の列ができあがり、満員のエレベーターを何本も見送らなければならない状態になっていました。
- 混雑を回避するためのアドバイスこれから行かれる方は、開場時間の15分〜20分前には11階へ上がっておくことを強くおすすめします。11階のスカイロビーは広々とした吹き抜け構造になっており、大きなガラス窓からは渋谷の街並みを一望できる開放的な展望スペースがあります。早めに上がって景色を眺めながら待つほうが、混雑のストレスもなく優雅に開場を迎えられます。
私たちは列に並びつつも無事に時間通り11階へ到着でき、開場から間もないタイミングでスムーズに改札を抜けて劇場内へと足を踏み入れることができました。
熱気に包まれるロビーと、大行列のプログラム販売
劇場ロビーに入ると、そこはすでに開演を待ち望む観客の熱気で満ちあふれていました。 海外からの来日公演ということもあり、客層も幅広く、国際色豊かな雰囲気です。
ロビーの一角には公演記念グッズや、観劇の定番である公式公演パンフレット(プログラム)の販売コーナーが設けられていました。舞台やミュージカルを観に行くと、キャストのインタビューや詳しい解説が載っているガイドブック的なプログラムを記念に購入する方も多いと思います。
私も「記念に買おうかな」と一瞬思ったのですが、物販コーナーの前にはロビーを半周するほどの凄まじい大行列ができていました。開演までの時間に余裕を持って着席したかったこともあり、今回は遠目に行列を見送りつつ、自分たちの座席へと向かうことにしました。
タイムスケジュールと劇場内の鑑賞環境|全編英語×字幕パネルの見え方
座席に落ち着き、赤い客席シートに深く腰掛けて開演の瞬間を待ちます。ここからは、当日の詳細な公演タイムスケジュールと、気になる字幕の見え方について詳しく解説します。
当日の詳細タイムスケジュール
今回の公演は2幕構成で、途中に20分間のインターミッション(幕間休憩)が挟まれました。
【ミュージカル『シカゴ』来日公演 タイムテーブル】
・12:00 開場(ロビー開場・客席開場)
・12:30 〜 13:40 【第1幕】(70分)
・13:40 〜 14:00 【休憩(インターミッション)】(20分)
・14:00 〜 14:50 【第2幕】(50分)
・14:50 終演・カーテンコール
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★ 総所要時間:約2時間20分(休憩含む)
第1幕が70分、休憩が20分、第2幕が50分という構成は、物語のテンポ感としても非常にバランスが良く、中だるみすることなく最後まで極度の集中力を保ったまま鑑賞することができました。
20分間の休憩時間には、夫とお互いの感想を語り合いながら「1幕だけでものすごい情報量と熱量だったね!」「2幕はどうなるんだろう?」と後半への期待を膨らませていました。
舞台左右の字幕パネルの見え方とリアルな鑑賞のコツ
今回の公演で最も気になっていたのが、「ステージ左右に設置された字幕パネルが、実際の鑑賞時にどれくらい見やすいのか」という点でした。
実際のシアターオーブの舞台左右には、縦長の長方形をした電光掲示板のような字幕スクリーンが設置されており、役者が英語でセリフを発したり歌を歌ったりするタイミングに合わせて、リアルタイムで日本語の翻訳テキストが表示されます。
実際に体験して感じたメリットと、少し工夫が必要だった点は以下の通りです。
1. 字幕のメリット:歌の歌詞まで完璧に理解できる安心感
日常英会話の聞き取りですら苦手な私にとって、ミュージカルナンバーの英語は極めて難易度が高いものです。リズムに乗り、韻を踏み、スラングや早口のパッセージが連続する歌詞を耳だけで聞き取るのは至難の業。
しかし、字幕パネルがあるおかげで、セリフのやり取りはもちろん、役者たちがどんな思いや皮肉を込めてそのナンバーを歌っているのかが手に取るように理解できました。「この曲はこんな意味の歌詞だったんだ!」と納得しながら観られる安心感は、何物にも代えがたいものでした。
2. 注意点とコツ:視線移動の忙しさと「周辺視野」の活用
一方で、舞台中央で繰り広げられる役者たちのダイナミックな演技やダンスを観ながら、視線を左右の端にある字幕パネルへと移動させる必要があるため、序盤は「少し視線が忙しくて見づらいな」と感じる場面もありました。
しかし、観劇が進むにつれて自然とコツが掴めてきました。 「まず字幕をパッと一瞬で流し読みして大まかな意味を頭に入れ、すぐに視線を舞台中央に戻して役者の表情やダンスに集中する」というリズムを掴むと、視線の移動ストレスは大幅に軽減されます。人間は文字を読むスピードのほうが速いため、慣れてしまえば劇中のスピード感から置いていかれることは全くありませんでした。
観てわかった『シカゴ』のストーリーと作品の奥深い魅力
予備知識があまりない状態で客席に座った私にとって、実際に目の前で展開された『シカゴ』の物語は、驚きとスリルの連続でした。「シカゴって、こんなにも刺激的で、痛快で、ブラックユーモアに満ちた大人の物語だったんだ!」と、一気にその世界観に引き込まれていきました。
あらすじ|1920年代シカゴを舞台にした悪女たちのスキャンダラスな成り上がり劇
物語の舞台は、狂乱のジャズ・エイジと禁酒法時代に揺れる1920年代のイリノイ州シカゴ。街中にはジャズの音色が響き渡り、裏社会ではマフィアと犯罪が渦巻いていました。
【主な登場人物】
・ロキシー・ハート:ナイトクラブの歌姫を夢見る人妻。愛人を射殺して収監される。
・ヴェルマ・ケリー:夫と妹の不倫現場を押さえて2人を殺害した、キャバレーの大スター。
・ビリー・フリン:裁判で負け知らずの敏腕弁護士。世論を操るメディアコントロールの天才。
・エイモス・ハート:ロキシーの夫。お人好しで気が弱く、誰からも存在を気付かれない男。
・ママ・モートン:クック郡刑務所の女性看守長。「情けは人のためならず(見返り第一)」が信条。
- 第1幕:愛人射殺から、獄中のシンデレラへキャバレーの舞台で脚光を浴びることを夢見る平凡な人妻ロキシー・ハートは、自分をショービジネス界に売り込んでくれると信じていた愛人フレッドに騙されていたことを知り、激昂して彼をピストルで射殺してしまいます。逮捕されたロキシーが送られたのは、悪名高きクック郡刑務所の女子監房でした。そこには、不倫した夫と実の妹を射殺した大物キャバレーダンサーのヴェルマ・ケリーが、すでに獄中の女王として君臨していました。ヴェルマは、強欲な看守長ママ・モートンの仲介を受け、これまで一度も依頼人を絞首刑にしたことがないという伝説の敏腕弁護士ビリー・フリンを雇い、新聞記事を利用して「悲劇のヒロイン」として無罪を勝ち取る計画を進めていました。しかし、スポットライトを浴びたいロキシーもまた、気の弱い夫エイモスを言いくるめて大金を用意させ、ビリーを弁護士に雇います。ビリーはロキシーを「純真で騙されやすい悲劇の乙女」としてマスコミに売り出し、記者会見を華麗なショーのように演出。ロキシーは一躍、全米の注目を集める時の人となり、ヴェルマからすべての名声と新聞の一面を奪い去ってしまうのです。
- 第2幕:スキャンダルの消費と、したたかな女たちの再出発世間の注目を一身に浴びて有頂天になるロキシーでしたが、新たな女性殺人犯が現れたことで、マスコミの関心はあっけなく別のスキャンダルへと移り変わってしまいます。焦ったロキシーは「お腹の中に赤ちゃんがいる」と嘘の妊娠を発表して再び世間の注目を取り戻します。迎えた裁判本番。ビリーの完璧な法廷サーカスとメディア操作によって、陪審員たちは見事に騙され、ロキシーは無罪判決を勝ち取ります。しかし、判決が言い渡されたまさにその瞬間、裁判所のすぐ外でさらにセンセーショナルな銃撃事件が発生。記者やカメラマンたちはロキシーに目もくれず、全員が一斉に新しい事件現場へと走り去っていきました。残されたのは、誰からも見向きもされなくなったロキシーだけ。大衆とマスコミのあまりの気まぐれさと残酷さを思い知らされたロキシーは、同じく世間から忘れ去られたかつてのライバル・ヴェルマと手を組みます。2人は「元殺人犯の美人デュオ」として新たなキャバレーの舞台に立ち、華々しくスポットライトを浴びながら笑顔で歌い踊るのでした。
代表ナンバーと演出の魅力|名曲が生み出す濃密なジャズの世界
『シカゴ』の最大の魅力は、名匠ジョン・カンダー作曲、フレッド・エブ作詞によるジャズナンバーの数々と、伝説の振付師ボブ・フォッシーが創り上げた唯一無二のダンススタイルにあります。
今回の来日公演で特に私の心に深く刻まれた名シーンをご紹介します。
『All That Jazz(オール・ザット・ジャズ)』
オープニングを飾る、作品の代名詞とも言える超名曲です。
暗闇の中からトランペットの妖艶なミュート音が響き渡り、ヴェルマ役の圧倒的な第一声とともにステージが一気に1920年代の危険で退廃的なシカゴのナイトクラブへと変貌します。
黒いシースルーの衣装に身を包んだアンサンブルたちが、肩をすくめ、手首を細かくスナップさせ、内股で歩く独特の「フォッシー・スタイル」の群舞を披露した瞬間、劇場中の空気が一変し、鳥肌が立ちました。
『Cell Block Tango(監房のタンゴ)』
ヴェルマを含む6人の女囚たちが、自分たちが夫や愛人を殺害するに至った経緯を語る圧巻のナンバーです。
「Pop(ポンッ)」「Six(6回)」「Squish(グシャッ)」「Uh-uh(知るもんか)」「Cicero(シセロ)」「Lipschitz(リップシッツ)」という、それぞれの犯行を象徴する6つの言葉と擬音をパーカッションのようにリズムに乗せて刻みながら、官能的で力強いタンゴを踊ります。「あいつには死んで当然の理由があった、私は悪くない!」と居直る女たちの狂気と美しさに、完全に圧倒されました。
『We Both Reached for the Gun(二人で銃へ手を伸ばした)』
弁護士ビリーがロキシーを膝の上に座らせ、「腹話術師と人形」に見立ててマスコミ記者たちの質問に答える記者会見のシーンです。
ロキシーの口をパクパクと動かしながら、ビリーが巧みな話術で記者たちを誘導尋問していきます。やがて取材していた新聞記者たちまでもがビリーの術中にハマり、全員が操り人形のように同じポーズでタップを踏みながら同調していく演出は、情報操作の恐ろしさと滑稽さを鮮やかに描き出しており、客席からも大きな笑いと拍手が起きていました。
『Mister Cellophane(ミスター・セロファン)』
ロキシーの夫エイモスが歌う、切なくも愛すべきソロナンバーです。
「自分はセロファンのように透明で、誰からも見えず、通り抜けて行かれてしまう存在だ」と、自虐を込めて哀愁たっぷりに歌い上げます。悪女や狡猾なペテン師ばかりが登場するこの作品の中で、唯一純朴でお人好しなエイモスの人間臭さが際立ち、観客全員が温かい手拍子で彼を応援したくなる名シーンでした。
本場キャストの生歌・生演奏が生み出す圧倒的な「アメリカンパワー」
舞台を観ていて終始圧倒されっぱなしだったのが、来日したブロードウェイカンパニーのメンバーが放つ凄まじいエネルギーでした。
劇場を揺るがす声量と、身体表現のキレ
役者たちが口を開き、第一声の歌声を響かせた瞬間、劇場の空気がビリビリと震えるような感覚を覚えました。
ただ「歌が上手い」というレベルを遥かに超えて、身体の奥底から太く響いてくる声量の豊かさ、リズムのタメやグルーヴ感、感情をダイレクトに客席へ投げ込んでくる表現力は、まさに本場の「アメリカンパワー」そのものです。
指先ひとつの角度、帽子を目深にかぶる仕草、視線の送り方に至るまで、極限まで磨き抜かれたダンスのキレは、観ていて惚れ惚れするほどスタイリッシュでした。
舞台中央に鎮座するオーケストラの生演奏
本作の演出で特徴的なのが、通常のミュージカルのようにオーケストラが舞台下のピットに隠れるのではなく、舞台の中央に巨大な階段状のバンドセットとして配置されている点です。
総勢十数名のジャズバンドが常に客席から見える状態で演奏しており、時には指揮者が役者とコミカルな掛け合いをしたり、役者がミュージシャンに目配せをしたりと、バンド自体が舞台の大切な登場人物のひとりとして機能しています。
サックスの艶やかな響きやドラムの鋭いアタック音がダイレクトに耳に届き、生バンドの熱いグルーヴと役者のステップが完全にシンクロする瞬間は、生演奏の舞台ならではの極上の贅沢でした。
日本とアメリカの文化の違い?潔すぎるカーテンコールに驚き
公演のクライマックス、全編が終わったあとのカーテンコールで、日本の舞台鑑賞文化との非常に面白い違いを実感する場面がありました。
何度も登場する日本式 vs 一度きりでスパッと終わるアメリカ式
日本のミュージカルや演劇では、本編が終了したあとのカーテンコールで、観客の拍手が続けばキャストが2度、3度、時には4度と幕前へ登場し、深々とお辞儀をしたり手を振ったり、主演俳優が挨拶をしてくれたりするのが一般的ですよね。
ところが、今回の来日公演は驚くほど潔い幕引きでした。 すべての演目が終わり、メインキャストからアンサンブルまでが並んで華やかに挨拶を終えると、客席からの鳴り止まない大拍手と歓声の中、スッと幕が下ります。そして次の瞬間、パッと場内の客電が全灯し、「本日の公演はすべて終了いたしました」というアナウンスが流れたのです。
あっさり感に宿る、無駄のないスタイリッシュさ
日本の舞台に慣れていると、一瞬「えっ、もう終わり!?もう1回くらい出てきてくれないのかな?」とちょっぴり名残惜しさや寂しさを感じてしまいました。
しかし、余計なアンコールや過剰なサービスで引き延ばすことなく、「見せるべき最高のパフォーマンスを完璧に見せ切ったら、スマートに颯爽と去る」というこの姿勢こそが、まさに無駄を削ぎ落としたスタイリッシュなアメリカンスタイル。舞台の余韻をそのまま胸に残して劇場を後にする感覚もまた、海外カンパニーの来日公演ならではの新鮮で刺激的な体験となりました。
「日本公演で観て本当に良かった」と心から思える理由
劇場を出て渋谷の街を歩きながら、私と夫の間で真っ先に出た感想は「本当に日本公演で観られて大正解だったね!」という言葉でした。
1. 字幕のおかげで作品の真の面白さを100%味わえた
もしあの時、ニューヨークのブロードウェイで無理をして観劇していたら、英語が苦手な私には登場人物たちの駆け引きや、裁判シーンの巧みなレトリック、ブラックユーモアの効いたセリフの意味がほとんど理解できなかったはずです。
日本語字幕のサポートがあったからこそ、ストーリーの奥深さやキャラクターたちの心理戦に心から引き込まれ、作品の魅力を余すところなく味わい尽くすことができました。
2. 圧倒的なコストパフォーマンスとタイムパフォーマンス
ニューヨークへ実際に渡航して観劇するとなると、昨今の燃油サーチャージを含めた国際航空券代、高騰する現地のホテル宿泊費、食事代、そしてブロードウェイのチケット代を合わせると、1人あたり数十万円規模の費用とまとまった休暇日数が必要になります。
日本にいながらにして、本場ブロードウェイの第一線で活躍するトップキャストたちの歌声、研ぎ澄まされたダンス、生バンドのフル演奏をそのままのクオリティで体感できたことは、経済的にも時間的にも信じられないほどお得で贅沢な体験でした。
バケットリストを1つ達成して|旅の宿題が未来の楽しみを創る
今回の観劇を通じて、私のバケットリストに記されていた「ミュージカル『CHICAGO』を見る」という項目に、誇らしく達成のチェックを入れることができました。
ニューヨーク旅行の当時は「時間が足りなくて観られなかった」とちょっぴり悔しい思いを抱えていましたが、今振り返ってみると、あの時あえて観劇を見送ったからこそ、今回の来日公演の情報を知った瞬間のあの飛び上がるような喜びや、劇場で開幕のブザーを聞いた瞬間の胸の高鳴りがあったのだと感じます。
旅先ですべてを完璧に詰め込もうとせず、「また次に来るための口実(宿題)」として少しやり残しておくこと。そして、その宿題が思いがけない形で日本で実現したり、次の旅へのモチベーションにつながったりすることの豊かさを、改めて実感することができました。
映画とは違う「生の舞台」の特別な魅力と、これからの観劇ライフ
今回の『シカゴ』鑑賞を通じて改めて強く実感したのは、「生の舞台やミュージカルは、映画を観るのとはまったく違う特別な体験になる」ということです。
映画館のスクリーン越しに映像を観る楽しさももちろんありますが、同じ空間で役者たちの息づかいや汗、劇場の空気を震わせる生歌の音圧、そしてオーケストラの生演奏をダイレクトに全身で浴びる感覚は、劇場に足を運んだ人だけが味わえる唯一無二の贅沢です。
日常の中に、こうした舞台芸術やミュージカルに触れ合う時間を定期的に作っていくことは、心を豊かにしてくれる素晴らしい習慣になると感じました。日本国内でも素晴らしいミュージカルや来日公演がたくさん上演されているので、これからもアンテナを張って劇場へ通う機会を増やしていきたいと思います。
次のニューヨーク旅行に向けて|ブロードウェイ作品をもっと勉強したい!
そして、今回の素晴らしい体験を経て、次なる楽しみと目標も生まれました。
『シカゴ』の緻密なストーリーと名曲の魅力を完全に理解した今なら、将来再びニューヨークを訪れた際には、字幕がなくても本場ブロードウェイの劇場の熱気をより深く、より自由に楽しめるはずです。
「次またアメリカ・ニューヨークへ行くときには、本場でどのミュージカルを観ようか?」
そう考えるだけで、今からワクワクが止まりません。 これからは他の有名なブロードウェイ作品についても事前にストーリーや楽曲をしっかり勉強して、次回現地で観たい本命の作品をじっくり選んでいこうと思います。
バケットリストの夢をひとつ叶えたことで、自分の世界がまたひとつ大きく広がり、次の旅へのモチベーションがさらに高まった満ち足りた夏の終わりの観劇体験となりました。
皆さんも、気になる舞台や来日公演があればぜひ劇場へ足を運んで、その圧倒的な生のエネルギーを体感してみてください!
